FPとして顧客にアドバイスを行う上で、医療費と医療保険の知識は重要な要素です。今回はFPに必要な医療知識や医療保険との関連性を見ていきます。
[chat face=”woman1″ name=”クライアント” align=”left” border=”gray” bg=”none” style=””]「医療保険に入った方がいいの?」
「老後の医療費が心配だわ」[/chat]
クライアントからこのような相談を受けるケースがあると思います。
医療費や医療保険についてクライアントに有益な情報が提供できると信頼関係が構築しやすいですね。まず基礎知識として生涯に掛かる医療費と、自己負担額を見ていきましょう。「生」・「病」・「老」・「死」は誰もが通る道であり、FPとしてライフプランニングする上で重要な課題となってきます。
次に日本人がかかる確率の高い病気と、その医療費を知っておきましょう。
更にFPとして知っておきたい公的制度について解説していきます。[box05 title=”本記事の内容”]・貯蓄が100万円あれば医療費は必要ない!?
・日本人がかかる確率の高い病気について
・出産前に医療保険を解約させるには細心の注意を[/box05]
医療保険の重要性は高くない
結論から申し上げますと、医療保険は貯蓄が一定額あれば不要だと思います。理由は既にみなさんは最強の保険に入っているからです。お客さんにこのような話をすると私は「最強の保険」に入った覚えはありませんと言われます。みなさん自覚がないのも仕方ありません。保険料は給与と一緒に天引きされているから自分で加入している感覚がないのです。
健康保険には高額療養費制度というものがあります。医療費が月に100万円かかったとしても、一般的な収入の世帯(月収28万~50万円)であれば、最終的な自己負担額は月9万円程度で済みます。たとえ100万円以上かかったとしても月の上限が決められているため、医療保険の重要性は高くありません。筆者としては貯金が100万円あれば医療保険は不要と考えています。また仮に医療保険に加入していたとしても入院費用や手術費で支払われる保険金の額はあまり大きな金額ではありません。ただそこまで話をしても医療保険に入りたいという方はいるので、その場合は最低限の保障にとどめた方が良いとアドバイスすると良いと思います。
私の父親が胃がんになった事例
私の実家の例で申し上げますと2013年に父親が胃がんにかかりました。医療保険に加入していましたが医療保険に加入していたおかげでいくらもらう事が出来たと思いますか?結果から言うと6万円です。父親は、えっこれだけ!?という気持ちだったようです。ただ保険会社は悪くないのです。契約通り支払いを行っただけですから。なぜこうなったのか解説すると父親が入院していた期間は7日、そして手術を行いました。医療保険の契約内容が入院日額5,000円、手術1回につき5万円です。しかも入院には免責期間があり4日目から支払い対象でした。よって支払い対象は入院4日×5000円+手術5万円の計6万円となってしまうのです。父親は2019年現在ガンも完治して元気ですが、保険はとりあえず入っておけば安心というのは間違いだったと反省しています。このような事態にならないために医療保険の加入はしっかり考える必要があります。
生涯に掛かる医療費と高齢者の自己負担割合
次に生涯の医療費についてみていきましょう。日本人が生涯に掛かる医療費は、男女平均で約2,500万円(自己負担でなく医療費の総額)と言われています。(厚生労働省,生涯医療費(男女計)(2010年度推計))このうち約6割が65才以上に掛かる費用というデータもあります。
やはり高齢になると医療費負担は増えます。女性の方が平均寿命は87.26歳です。男性の平均寿命が81.09歳なので女性の方が男性より6.17歳程長く生きることになります。
そして高齢者の医療費の自己負担割合は、65歳では3割、70歳以上は2割、75歳以上は1割となっています。ただし収入が現役並み所得者の場合(世帯年収520万円以上、単身では383万円以上)は70歳以上でも3割負担となります。
そして未就学児は2割、小学校入学から69歳までは3割となります。
生涯に掛かる医療費は、男女平均で約2,500万円ですが、自己負担割合を平均して計算すると、一生に掛かる平均自己負担額は約500万円前後となります。
顧客の年齢やライフステージに応じた医療費を試算し、有益な情報を提供しましょう。
日本人がかかる確率の高い病気
日本人がかかる三大疾病と言えば、がん・心疾患・脳血管疾患です。
死因第一位のがんは約28%、第二位の心疾患は約 15%、脳血管疾患は約8%と三大疾病だけで半数以上の人が死に至っています。
医療技術の進歩により、完治することも多くなりましたが経済的負担が気になる方は数多いです。
がんは抗がん剤や化学療法・放射線治療により、70万~100万円以上の医療費がかかります。急性心筋梗塞(心疾患)は約180万円、脳梗塞(脳血管疾患)は約150万円と言われています。
カテーテル手術やステント治療など、高度な医療技術と高額な医療機器を要するためどうしても医療費が高くなってしまうのです。
ただ一部の治療法を除けば、高額療養費制度で月に一定額の自己負担で抑えられます。高額療養費の金額の算定は以下の計算表に当てはめてみましょう。
年収が約370万円~770万円の方であれば1カ月の医療費の上限は9万円弱で済みますね。一般的には完治しても通院と服薬をする事が多く、予後が良くない場合は収入が減少してしまうケースがよく見られます。
出産費用について
病気ではありませんが、ライフステージによって発生する費用です。出産の平均費用は病院の場合約50万円です。正常分娩の場合は医療保険は適用されませんが、異常分娩(帝王切開や吸引分娩など)の場合は入院費・手術代などが3割負担となります。帝王切開などの異常分娩の場合は保険金がおりることがあります。
顧客に出産の予定がある場合に医療保険を解約させてしまうと、帝王切開などで給付の対象になる可能性が有るので慎重にアドバイスする必要があります。
医療費の公的制度
その他に医療関連の公的制度としては傷病手当金・出産育児一時金・出産手当金があります。順番に見ていきましょう。
傷病手当金
業務上の病気やケガなどにより、働けなくなった場合に給料のおよそ3分の2が支払われる制度です。1年6か月間受け取る事が出来ます。
出産育児一時金
出産の際に、子供一人当たり42万円が支給される制度です。健康保険によっては付加給付が出る場合もあるようです。
出産手当金
「産休手当」とも呼ばれています。社会保険に加入している女性が産休で働けない期間を、経済的にサポートしてくれる制度です。出産日の42日前から出産の翌日56日の範囲までに、給与が振り込まれなかった女性を対象として支給されます。なお国民健康保険にはこの制度はありません。
さいごに
FPのみなさんは医療保険に入りたいという相談を今後も受けると思います。
しかし、国民皆保険制度である日本では公的な医療制度が充実していますので、まずは公的制度をベースに医療費を試算してアドバイスをしましょう。もちろん貯蓄が少なく将来が心配な方は医療保険に入った方が良いケースもあるので、それぞれのクライアントに合う保険のアドバイスをしていきましょう。子供を希望する若い世代に出産に掛かる費用や公的制度についての情報提供も行うとより喜ばれます。
FPとして医療保険に関するアドバイスの参考にして頂ければ幸いです。